11月 11

野球飯14(監修:猪谷栄様)


~噛む力とスポーツの関係性


スポーツではよく「歯を食いしばって」という言葉を聞きますよね。
野球でも、バッティングの際は歯に力がかかることはここ数年、よく聞かれるようになりました。プロ野球や高校野球でもマウスピースを使用している選手もちらほら見かけるようになりましたね。
スポーツ栄養学の面からも、消化吸収の促進や、エネルギーを効率よく消化・吸収するには噛む力「咀嚼力」は大切になります。
また、近年では「スポーツ歯学」という分野もあり、スポーツと噛むことの研究が積極的に行われています。
では、本当に「噛む力」とスポーツでの力の発揮には関係性があるのでしょうか。
今回は、噛む力・咀嚼について考えてみましょう。
★スポーツでも噛むことはいいことがいっぱい♪★

【筋力UP】
重いものを持ち上げるときや、野球ではバッティングの時に力を入れようとすると、自然に口の周りにも力が入っていませんか?
これまでの研究から、歯をしっかりと食いしばることで筋力は4~6%もアップするという報告がされています。
数字にするとわずかに聞こえますが、これはバッティングになればここぞというときに力が入り、バッティング飛距離にもつながるでしょう。
上下の歯が合わさると、「噛んだ!」という情報が脳に伝達され、脳の「運動野」というところに伝達され、そこから骨格筋などの反応や動きに連動します。
この伝達ルートが「力が入る」伝達ルートになります。
【重心の安定・姿勢の安定】
上下の歯でしっかりと「噛みしめている」場合と、嚙み合わせが悪い場合では、直立した場合のふらつきの具合を指す「重心動揺」に違いがでてきます。
噛み合わせが悪いと、重心がぶれてふらつきがでてきます。
ピッチングでもバッティングでも安定した動作ができないと、しっかりと打ったり投げたりすることができませんよね。
特に大切になるのが前歯よりも、犬歯よりも奥の奥歯のかみ合わせになります。
また、歯を嚙みしめることで、首にある胸鎖乳突筋など首の筋肉に力が入り、首が安定します。首が安定することで体の軸がぶれないので、結果的に体幹の安定につながります。
そして首が安定することで、視点の位置のブレも防ぐことができるので、視線が定まり、パフォーマンスの向上につながります。
私たちは、体の姿勢を保とうとすると「咬筋」という噛むための咀嚼筋を働かせます。これが「抗重力筋」として体の平衡感覚の維持を担う役割をもっています。
【集中力UP・血流の増加】
噛むことで認知機能をつかさどる、前頭前野の血流が良くなり集中力と判断力もUPします。
★噛む力はタイミングも必要★
噛むことは姿勢の安定や、力を出すときに必要なことがわかりました。さらに、必要なのは、常に噛みしめているのではなく「噛みしめるタイミング」です。
野球では、バッターがボールを打つときは、バットにボールが当たるまではリラックスした状態を作り、ボールがバットに当たった瞬間にグッと噛みしめ、バットを握る手に力をこめます。
このように、常に噛みしめていては本当に必要な時に必要な力が得られません。タイミングよく、一瞬でグッと噛める力が必要になります。
野球のメジャーリーガーの多くはバッティングの直前までガムを噛んでいて、打つ直前に噛む事をやめてバッティングを行います。これは投球への集中力を高める事に効果があるのではないか、あるいは噛む事によって脳が活性化されるためにバッティング技術が向上するのではないか、と考えられてきましたが、これまで科学的に証明された事はありませんでした。これを証明するために脳波を使った実験があります。
脳波反応の1つとして有名なものに、P300というものがあります。この反応は、何らかの刺激が与えられてから300ミリ秒(0.3秒)後に出現する陽性(Positive)の反応です。

ガムを噛んだときと、顎を動かすだけのときを比較すると、ガム噛みを繰り返すことで、P300が早く現れるようになる。脳が活発に働くことを表しています。

また、歯並びが悪く、左右対称に噛みしめることができない場合は、体幹や力の入り具合のバランスも噛む力が強いほうに偏ってしまう研究結果がでています。
左右同等に噛むように意識すると、体幹のブレが少なくなったり効率的にパワーを出せるようになったという報告もあります。噛むときは片方だけでなく、左右同等を意識してみましょう。
★噛むトレーニング方法は??★
日本人の咀嚼回数は、時代とともに大きく低下しています。昭和初期頃(約80〜100年前)では、一食あたりの咀嚼回数は、約1400〜1500回であったのに対して、現代人では約620回と半分にまで落ちています。鎌倉時代の日本人は、1回の食事で約2600回噛んでいたといいます。それが弥生時代では一食あたり約4000回も行っていたようです
現代人の咀嚼回数は、およそ80年のあいだに約半分にまで低下しています。

ひとくちの咀嚼回数は「30回」が望ましいといわれてます。現代の日本人は、食事の洋食化によって、噛む回数が低下していると指摘する人もいますが、欧米でも「咀嚼は30回を目安に」という教育があります。
毎食の食事で「噛む」ことも咀嚼筋の筋肉トレーニングでバッティングにつながると思い、噛むことも意識し楽しく食事ができるといいですね。
★毎日の食トレで簡単に実践★
①主食を見直し
噛み応えのあるご飯がおすすめです。
玄米や発芽米、胚芽米はプチプチとした食感が楽しめます。
②食材を工夫
きのこ類、海藻類、根菜類など食物繊維を豊富に含むものや、切り干し大根、高野豆腐などの乾物、みりん干しなどの干物、いか、たこ、貝類、こんにゃくなど、歯応え、噛み応えがあります。
③調理法を工夫
野菜は大きめに切って、少し歯応えが残るくらいに火を通します。
また、豆や芋なども同様に火を通すと、ホクホクと美味しく食べられます。
④薄味を心がけましょう
薄味にしてよく噛むことで、素材本来の味を楽しめます。
塩分や糖分も控えられ、一石二鳥です。
⑦ゆっくり楽しく食事をしましょう
噛むことばかりを意識しすぎて、食事を楽しめなくては本末転倒です。
ゆっくり楽しく味わいましょう。

猪谷 栄
アスリート栄養学インストラクター・看護師
高校2年生と中学2年生の野球息子のママです。 まったく、興味のなかった野球でしたが、息子の応援から始まり「栄養や生活習慣で野球息子をサポートしたい!」という思いが高じて資格を取りました。 栄養や日々の生活での気になることを一緒に考えていきましょう。